由緒あるシルクの生産地　桐郷市

シルクロードとともに発展し、４７００年もの間伝統技術を今も伝え続ける絹の街

 

 

 

烏鎮のある街、桐郷

桐郷市という地名を聞いたことがなくても、もしも旅行好きであれば烏鎮（うちん）と言えばわかる人もいるのではないでしょうか？

烏鎮は、古い町並みを保存された歴史観光地区で、東洋のヴェネツィアとも言われています。

 

なるほど、古い中国映画に出てくるような木と石造りの街並み。そして水路がこれでもかと張り巡らされた美しい水の街。

観光地なので非常に人は多いですが、それを差し引いても美しい。夜にはライトアップされて、また違う表情を見せてくれます。

 

長江より南の地方を中国では南方といい、北方と南方では文化が異なります。

そして、南方の食文化、建築などは日本人にとって非常に親近感の湧きやすい文化でもあり、特に古い町並みなどは私たち日本の風景とは違うものの、何故だか懐かしい、ノスタルジックな気分を堪能させてくれます。

 

上海から２時間程度、杭州への途中に位置し、有名な観光地なので杭州ツアーなどに参加すれば恐らく一緒に訪れることになるのではないでしょうか。アクセスも良いので気軽に日本の風景から飛び出したい方にはとてもおすすめです。

 

シルクとともに歩んだ４７００年の歴史

さて、この烏鎮のある市が桐郷市ですが、桐郷市は古くからシルクと藍染めで栄えた街です。

特にシルクの生産の歴史は古く、４７００年と言われています。

絹の伝説によると更に古くから存在していますが、実際の考古学的な立場では浙江省銭山漾(せんざんよう)遺跡から発掘された絹片の発見によって、新石器時代から絹製品の製作が行われていたことがわかっています。

また時代は下り、１８世紀の清朝第６代乾隆帝は南方視察に訪れた際には「桑の木が何十里も続いているではないか。確かにこの国にはたくさんの桑の木があるなぁ」と言った記録が残っているそうです。

そんな時代から脈々と続く養蚕と絹作り。シルクロードによって絹を世界に発信し、その手法は今でも現地に根付いています。

そしてその中でも桐郷市はシルクを糸ではなく、寝具や防寒着の中綿として活用する真綿（まわた）の町で、この地に住む人々は子供のころから真綿とともに生活してきました。

 

彼らの真綿布団は時の権力者への献上品としてだけでなく、彼ら自身が生まれた時から真綿に包まれ、結婚の時、子供が生まれた時、そして旅立ちを迎える時も真綿と共にありました。

現在では工業化が進み多くの伝統技術が失われていくなか、この街には世界に誇る最高品質の真綿布団の技術があります。

大工業化の波と失われゆく技術

中国は１９８０年代以降大工業化の波が押し寄せました。大工業化によって河川、土壌、大気汚染が発生することは世界共通と言えます。

そして、養蚕の世界でもほとんどの養蚕家たちが廃業の憂き目に合い、やがて絹織物も真綿作りも伝統的な技術者は徐々に姿を消していくことになりました。

 

工業化は、より多くの製品の生産を低コストで可能にする一方、信じられないほどの化学物質、薬品を使用する事が当然のごとく行われます。

また、大量生産品が市場に出回る事で価格競争が起こり、生産者はより低いコストを追い求めるため品質の低下が往々にして起こります。

消費者としては、より安い製品を求めるのは当然の事ですが、その裏では生産者の非情なまでの努力と競争と多くの矛盾によって市場が成り立っているのです。これはほんの一部に過ぎませんが、そのようにして中国は世界の工場としての地位を確立しました。

 

グローバル化と地域振興

しかし近年では、インターネットの普及も進み中国はGDPでも世界２位の経済大国となり、我々日本とはまた違った発展を遂げています。

ご存じの方も多いと思いますが、2010年代には中国の大気汚染が日本でも大きくニュースに取り上げられました。実際には現在でもこの問題を抱える都市は数多く存在しますが、近年の更なるグローバル化によって多くの都市で汚染物質への関心も高まり、一部地域では規制も厳しくなり、現在では多方面で失われゆく伝統技術を後世に残す活動が活発化しています。

2009年には中国の養蚕・絹織物の技術はSericulture and silk craftsmanship of China としてユネスコ無形文化遺産に登録されました。

しかし、それでも養蚕家も真綿職人も高齢化が進み年々その数は減少しており、世界に誇れる技術をいかに保存していくのかが大きな課題となっています。

 

世界最高峰の真綿布団が再び世界へ

養蚕では綺麗な水でなければ良い桑の木が育たず、良い桑の葉でなければ良い蚕が育ちません。

真綿作りは繭の品質が命。水質土壌の管理は最低条件になります。

そして質の良い繭を更に品質グレード毎に選別していきます。この作業は現在でも人の手でなければできません。

更に、高品質繭であればあるほど繭を壊さないために人の手によって繭が剥かれます。

中国には繭の品質グレードがあり、数々の厳しい基準を満たしたものだけが優等品を名乗ることができます。

優等品質は当然のことながら、桐郷の伝統技術職人たちのシルク発祥という伝統と誇りをかけた世界最高峰の真綿布団作り。

インターネットで世界が容易につながるようになった今、再び桐郷のシルクの布団を世界へ発信しています。